暖冬といわれた今シーズンの冬でしたが、一気に大寒波がやって来て、まとまった雪となりました。
昨年12月に、「むくろじ」で大道理地区の「ふるさと祭」の昔を知る方からお話をお伺いするために、
ご自宅にお伺いした福原新さんから、「これから竹細工を今から始めるから、良かったら見に来るかね?」
というお電話を頂きました。
竹細工作品と福原さん
福原さんの竹細工作品です
竹細工研修の修了証書。
日付は昭和21年6月末日です
昨年ご自宅にお伺いした時、作品はいくつか見せて頂いたのですが、実際に作るのは、雪が降って外の作業が出来なくなってからだということでした。
その時に、「作業を始められる時には是非見せて下さい」。
とお願いしていたところ、大寒波での雪で、ちょうど作業を目の当たりにできる「その時」がやって来ました。
ご自宅に伺うと、作業をされる部屋には先月お伺いした時と同様、薪ストーブが焚かれ、外の雪と相まって、
冬らしい風情と薪の燃える香りが広がって、ほっかりとする雰囲気の中で、福原さんの淹れて下さったお茶をごちそうになりながら、
作業が始まるまでの少しの時間、奥様とお話させて頂きました。
福原さんが竹細工を学ばれたのは、写真の通り昭和21年のことで、
山口市で三カ月間の寮生活を送りながら、技術を身に付けられました。
福原さんが竹細工を学んだ時期はちょうど戦後で、物が無い時代。
町場から野菜などを買い求めに来られる方の自転車の籠(通称やみ籠と言っていたそうです)
などが良く売れ、「生活の支えになった」とおっしゃいました。
時が流れて、竹細工の需要が少なくなった後は会社勤めをされ、定年退職されてから、
再び竹細工を始められたそうですが、かなりのブランクがあっても体が覚えていた、と言われ、
スムーズに再開できたことが伺えました。
▲ルーラルフェスタでの竹細工実演の様子
ルーラルフェスタが大道理地区で行われていた頃には、竹細工の実演をされたり、
小学校に行って、竹とんぼづくりを教えて、皆で飛ばしたりといった内容の活動もされていたそうです。
福原さんは、ご自分が身に付けた技を残したいという思いを強く持っておられ、竹細工の会を作り、
人が集まったら作り方を教えたい、とおっしゃいます。
「技を身に付けるのは簡単ではない。作り始めるまでの「ひご」を作るのが難しい」。
と、度々おっしゃっていた「竹ひご」作りの技を降雪の1月下旬、目にすることがようやく叶いました。
竹細工を始めるにあたり、竹の種類について、まず、ご説明して下さいました。
福原さんが竹細工に使われる竹は「ホンダケ」という種類の竹で、時期的には孟宗竹、破竹が生えた後、
一番遅くに生えてくる竹なのだそうです。
孟宗竹は繁殖力があって、はびこって困るくらいなので、竹細工に使えれば良いのですが、
残念ながら、「身が硬く、肉厚のため、加工しづらく竹細工に向かない」。
とのことで、竹細工に使うホンダケは孟宗竹ほどの繁殖力はなく、大道理でもあちらこちらにあることはあっても、
残念ながら沢山の数は無いということを教えて下さいました。
竹は10月、11月が一年の中での一番良い切り時で、
その他の時期に切ると、虫がついてダメになるそうです。
一番良い時期に切っておいた竹を、日陰で、乾燥で割れたりしないよう、時々水をやりながら、
大切に管理しながら置いておき、それを加工に使えるよう、作業前には「竹ひご」づくりに取り掛かられます。
日に当たると、折れたり、粘り気がなくなったりして、加工には向かなくなるとおっしゃいます。
「竹ひご」づくりは、丸い竹を半分に割り、それをさらにまた半分に割り…という作業を繰り返していきます。
「編むのは器用な人じゃったらすぐに出来るようになる。けど竹ひごを作るのはすぐにはなかなか出来ん」。
とのことですが、長年竹細工をされてきた福原さんは、体が覚えているため「指が自然に動く」のだそうで、
「よそ見しちょっても出来る」。と、とても自然で流れるような美しい動作で加工され、
職人さんならではの熟練の技を目の当たりにして、釘づけになりました。
縦に割っていった竹を今度は、編みやすい厚みの「ひご」にするため、皮の部分と身の部分とに分けていきます。
幅と厚みをを作りたい物のサイズに近づけたら、今度は、使う竹ひごの横幅を均一に揃えていく作業です。
市販の竹細工のひごづくり用の道具を見て、福原さんがご自分で拵えたという
「幅揃え用の道具」が、ここで登場します。
▲道具の刃を作りたい物の幅に設定します
▲竹ひごを通していきます
▲左手で竹ひごがずれないように押さえ、右手で引いていきます
ひごの幅が揃ったところで、今度は、出来上がりの品が使う方に使い易いよう、角の面取り作業をします。
こちらも、福原さんが鍛冶屋さんにオーダーメイド作ってもらったという特殊な刃の道具で加工していきます。
▲作りたいものによって、竹ひごの横幅は変わってきますが、
それぞれのサイズに合わせ、
幾通りもの横幅の竹ひごの面取りができる、優れものの道具です!
▲面取り風景の全景です。
ここまでの竹ひご加工作業を経て、初めて籠を編み始められます。
竹の「そうけ」を作っておられます。こちらを完成させるまでには約3日ほどかかるそうです。
▲竹の目をそろえておられます
さらに、こんなのもあるとご紹介頂いた編み方で、こちらは「六つ目」というものだそうです。
こちらも、竹と竹との編み目の空間が六角形になっていて、とても美しい編み方です。
この編み方で編まれたものは、籠にして使ったり、コースター等で用いられたり、様々な用途で用いられます。
雪道の運転に自信がなく、当初歩いて福原さんのご自宅まで伺う予定が、
井上正彦向道支所長が福原さん宅まで送迎して下さいました。
上の写真は帰りに迎えに来られた井上支所長に、福原さんが笑顔で竹細工の作業工程を説明されているところです。
山口県は、鹿児島、大分県に次いで、全国三番目の竹林面積を持つ県だそうで、
先日BSのテレビ番組を観てみると、北海道の「ササラ電車」に使われている竹は
萩の竹を使っていると言っていました。
萩の竹は質が良い、ということで、遠く北海道の地で活躍しているという事実を初めてその時知りました。
他にも、番組内では萩の竹を使った家具などのことも紹介されているのを目にすると、
竹を加工できる職人さんが身近におられ、技を目の当たりにして、
この技を活かして、伝承しないと勿体ないと痛感しました。
福原さん、素晴らしい技を見せて下さり、感激でした。
本当にありがとうございました!