こんにちは。夢求の里交流館山縣です。
大道理地区の食、風習祭事等、今日の生活の中に根付いているもの、今では失われた伝統等を知りたいという思いから始めた『少し昔の大道理』。「春を待つ」というテーマで、今回は中村にお住まいの山田均さん、富美子さんご夫妻にお話をお聞きしました。
▲「春を待つ暮らし」についてお話し下さった
山田均さん 富美子さん(中村)
山田富美子さん:『私は昭和11年に大道理の横川地区で生まれました。
地主の家でしたが、第二次世界大戦後、地主制度が解体し、父はそれまで教員をしていましたが、退職して農業を始めました。
私の家族も私も農業一年生なので、近所の方に手伝って頂いて、教わりながら作物を作り始めました。
私は四人姉妹で、学校から帰ると農作業を手伝い、田植えの時は、苗を運ぶ等していました。
熟れの悪い米は、千歯に稲をかけてこいだ後、一週間くらい水に浸け、お茶をいるための大きな釜でもみ殻ごと炒り、唐臼で挽き、焼き米にして食べました。味としては、茶粥に近い感じだと思います。
↑上の道具は、脱穀用の道具で、竹と竹の間に挟んでこいでいきます。
▲米を入れる袋の変遷。右から順番に時代が新しくなっていきます。
右から 俵→カマス→麻袋→現在の紙袋
上の写真は米を入れる袋で、右から左へ行くに従って時代が新しくなります。
俵はひと袋60キロ入れます。筵やカマスは、冬の間、雪の降った日などに炭鉢を置いて納屋で編みます。
昔は今よりも雪が多く降り、長靴の中にも雪が入って来ていました。
カマスは、雪かきにも使っていました。
米を出荷するための袋は、何目縫うか等の規定があり、難しく、最初は近所の方から教わりながら作りました。
婚礼、桃の節句、ハレの日の食事
かつて大道理での婚礼は、自宅で執り行われていました。
「尻が据わりますように」という思いを込めて、地域の方が結婚式にお地蔵様を担いで運んで来られ、お礼としてお酒を一升お渡しする風習がありました。
お地蔵様は結婚式の後で新郎がお返ししますが、元々お祀りされていた場所が分からなくなってしまうこともあったと聞いています。
婚礼のための花嫁道具が必要なのは女性だけではなく、養子に入る男性も洋服ダンス、和服用のタンス、長持(布団タンス)、着物など、花嫁道具同様に支度が必要でした。
父(富美子さんの実父)が養子に入った時、トラック二台分の婿入りの道具でしたが、家に入るまでの道が狭く、家に運び入れるのが大変だったという話を実家の隣家で暮らしていた分家の叔母から伺いました。
今では行われていませんが、大道理地区では初めて娘が桃の節句を迎える家があると、近所の方が雛人形を持ってお祝いに来られ、お礼に家では、お刺身、酢物、お吸い物、茶わん蒸し、焼き魚などの食事を振る舞う風習がありました。我が家でも娘の初節句の時には、近所の方が雛人形を持ってお祝いに来られ、近所の方と、山田家だけでなく実家の両親も招いて賑やかにお祝いをしました。
地神申(申祀)・お日待ち
毎年、私の家と山田悦美さん、斎藤数典さんの家の三軒では、立春過ぎの2月に、「お日待ち」をします。お日待ちとは、日じん祭のことで、産土の神社である三嶋神社の宮司さんに来て頂いて、太陽の恵みに感謝し、水神様、火の神である荒神様、土地の神様をお祭りし、一年の家内安全をご祈願するものです。
▲地神申の準備風景 御幣を皆さんで準備されています(中村地区)
中村地区では「地神申(じじんもうし)」を毎年立春過ぎに行っています。
(※三嶋神社の宇多宮司さんによると、地神申は、土地神様をお祀りすることに特化した民間信仰で、土地全体、地域全体をお守りして頂くためのもので、お日待ちは、太陽神(天照大御神)、水神様、荒神様、歳神様をお祀りし、恵みに感謝して、一年の家運隆盛、無病息災を祈る行事なのだそうです。)
▲お祓いをされた後、宮司さんが土地の皆さんの無病息災を祈り土地神様へ祝詞を奏上されています
お日待ちは、今年、斎藤数典さんの家がお世話をされる当屋となり、2月12日に斎藤さんのご自宅で行いました。
お祀りの準備はそれぞれの家で行います。お供え物は、必ずしもこれを準備しないといけないというものではありません。実家が宮司の家で、実家でもお日待ちをしていたため、実家でのお日待ちと、嫁いで来てから義母に習ったことを踏まえて私の家では、お水、お洗米、酒、榊、ロウソクを祭壇の一番上にお供えし、二段目には、人参、椎茸、大根、ブロッコリー等のお野菜や、リンゴ、ミカン、柚子等の果物、海苔などの乾燥したもの、ニラミダイ二匹をお供えします。
当日、宇多宮司さんに来て頂き、この一年間の家内安全と無病息災、お日様など自然の恵みに感謝し、今後一年間、家内安全と、五穀豊穣をお祈りする祝詞を宇多宮司さんに奏上して頂き、水神様、荒神様、山の神様のお札、御幣を頂きます。
山の神様へは、敷地内で四か所に、小豆、お米、大豆等の五穀をお供えし、御幣を立ててお祀りします。これまで先祖が続けてきたことを、自分たちも受け継ぎ、一年に一度行うことで気持ちの上でも清々しく過ごせる気がしています。』